現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

稲刈りの日々とイナゴと秋刀魚の歌


2日(金)
午前中籾擦り。午後稲刈り。夕方、ヌカ捨て。


3日(土)
朝飯前から籾擦り。朝飯後も籾擦り。10時から稲刈り。田んぼに弁当が届いたりして僕は16時半まで稲刈り。その後、ヌカ捨て。


4日(日)
朝飯前から籾擦り。朝飯後も籾擦り。10時から稲刈り。田んぼに弁当が届いたりして僕は16時半まで稲刈り。その後、ヌカ捨て。
あれ?昨日とまったく同じパターン?

細々したトラブルは毎日ありますが、順調に稲刈りが進んでいます。今日はコンバインの給油口のキャップをどこかで落としてしまった。いやはや。いまのところ、収量は平年並。でもくず米がすくなく、粒がなんだかきれいです。


まだ無農薬のお米は稲刈りしていないのですが、初めて籾擦りをした先日、籾擦りしたばかりの玄米をご近所に届けました。今日もご近所から電話をいただき(去年から予約していただいていたのですが)、早くほしい、ということでしたので、今日夕暮れにお届けしました。まだ僕は新米を食べていないのですが、いい感じ。そのかわり収量は言われているほど多くはなく、平年並というところです。ま、このあたりは農家それぞれの作り方で変わってくるところなので、収量が多くて豊作かも?と喜んでおられる方もあるかもしれませんね。



稲刈りしていると、コンバインの前をイナゴが飛ぶ。田んぼでじっとしているイナゴを捕まえようとすると、近づくだけでどんどん逃げていくので捕まえるのは素早い動きが必要になるのだが、こうしてコンバインで運転していると、イナゴの方からどんどん僕の方へ飛んでぶつかってきたり、頭や腕や肩にとまったりする。
とりあえず、僕の素早い動きで一匹捕まえた。どこかの温泉旅館でイナゴの佃煮だったかを食べた記憶があるが、実際に捕まえて佃煮にしたことはない。煎って潰してご飯のふりかけにしてもおいしいと聞いた事があるが・・・。
イナゴのとぼけた顔は嫌いじゃない。あ、仕事中のため、指や爪が汚いのはご容赦ください。


秋刀魚の塩焼きが夕食に出た。えー、諸般の事情で、僕だけ遅れて一人で夕食となったのですが、まるまる一匹の尾頭付き。ですが、うちには秋刀魚一匹がそのままのる長い角皿がないので、尾も頭もお皿からはみ出しておりました。秋になったんですねぇ、って稲刈り中の僕が言うのもへんですが。
それにしても、秋刀魚はうまい。子どもの時から大好きだが、一人で秋刀魚を食べていると、やっぱり思い出す詩がある。



     
         秋刀魚の歌      佐藤春夫

 
     あはれ
     秋風よ
     情あらば伝えてよ
     ー 男ありて
     今日の夕餉に ひとり
     さんまを食ひて
     思いにふける と。


     さんま、さんま、
     そが上に青き蜜柑の酸をしたたらせて
     さんまを食ふはその男がふる里のならひなり。
     そのならひをあやしみなつかしみて女は
     いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕餉にむかひけむ。
     あはれ、人に捨てられんとする人妻と
     妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
     愛うすき父を持ちし女の児は
     小さき箸をあやつりなやみつつ
     父ならぬ男にさんまの腸をくれむと言ふにあらずや。


     あはれ
     秋風よ
     汝こそは見つらめ
     世のつねならぬかの団欒を。
     いかに
     秋風よ
     いとせめて
     証せよ かの一ときの団欒ゆめに非ずと。


     あはれ
     秋風よ
     情あらば伝えてよ、
     夫を失はざりし妻と
     父を失はざりし幼児とに伝えてよ
     ー 男ありて
     今日の夕餉に ひとり
     さんまを食ひて、
     涙をながす、と。


     さんま、さんま、
     さんま苦いか塩っぱいか。
     そが上に熱き涙をしたたらせて
     さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
     あはれ
     げにそは問はまほしくをかし。




佐藤春夫本人の朗読が残っていて、「情」は”こころ”、「汝」は”なれ”、「団欒」は”まどい”、と読んでいますね。
この詩は佐藤春夫谷崎潤一郎のあいだでおこった「妻譲渡事件」のまえのトラブル中に書かれた詩であるのは、有名な話ですが、そういう話を知っていればもちろん、でも知らなくても、なんだか中年の男が一人で秋刀魚を食べる夕餉の風情は悪くないですね。ええ、もはや、よその奥さんをなんとかしようとおもっているわけでは決してないのですが。