現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

雨とヴィスコンティ『山猫』と井上靖の『落日』

ルキノ・ヴィスコンティ監督『山猫』(1

12日(火)
朝から雨で、今日は休養日にする。まったくもってウダウダ。
ルキノ・ヴィスコンティ監督『山猫』(1963)をDVDで観る。187分。修復版で1963年の映画とは思えない美しい映像です。
ヴィスコンティの名前はずっと昔から聞いていた。でも映画を観る縁がなかったのだが、Amazonが薦めてくれたのでクリックしてしまった。ヴィスコンティの代表作だし、傑作だし、アラン・ドロンも出てるし、ヴィスコンティにしか撮れない映像だ、というあれやこれやの評判です。
脚本がいいのはもちろんだけど、でもちょっと長い?、バート・ランカスターがいいですな。あとシチリアの風景も。風景はマカロニウエスタンの景色っぽいと思ってしまいました(笑)。屋内のお城の中はもう貴族社会ですけれど。
なるほどねぇ。革命が起こって貴族社会が没落していく。おもしろかったです。楽しめました。美しかったし。なるほど。



13日(水)
朝はちょっと雨が降ったりしたが、その後晴れてくる。
午前中は最初、田回りして最初に植えた「秋の詩」の田んぼの尻水戸を切り落水。その後、籾擦り、ヌカ捨て、それから月曜に刈った無農薬「コシヒカリ」の籾擦りも。


午後は大豆の圃場でマルバルコウソウ(丸葉縷紅草)を取って歩く。手間暇かかりますな。ま、いいんだけど。
大豆の葉っぱの下に潜り込んでマルバルコウソウの根を探していたら、たくさんキノコが出ているのを発見。なんていうキノコだろう。食べられそうだが、食べない。小学生の頃、ワライダケを食べると笑いが止らなくなって,笑いながら死んでいくという話を、ウソか真か、聞いて、笑いながら死んでいけるのならいいような気がしたが、考えてみたらおもしろくもないのに笑い続けて死んでいくのは、相当苦しそうだ、と思い直したのを覚えている。




井上靖の小説を最初に読んだのは『敦煌』で、中学生だったのか、高校生だったのか、なんだかはっきりしないが、きっかけはよく覚えている。友達のT君が「おい、これ、おもろかったで。ふふ、この題、読めるか?」などと挑発的なことを言ってきたのだ。もちろん読めなかったが、「とんこう」と読むのだと教えてもらって、すぐに本屋さんで買ったと思う。T君は家に単行本で『蒼き狼』を持っていて、というかたぶんお父さんかだれかの本だと思うのだが、おもしろかった、と中学の時に盛んに言っていたのは覚えている。『敦煌』は読んでみたらとてもおもしろくて、その後も『楼蘭』などなど、井上靖の西域小説にどっぷり浸かってしまった。もちろん『蒼き狼』も文庫で読んで、わくわくしました。
その後、『しろばんば』、『夏草冬涛』、『北の海』の洪作シリーズもよかったです。とくに旧制第四高等学校の柔道部の『北の海』は、北陸で学生生活をおくった僕には何かと印象的だったけれど、井上靖の詩集『北国』というのが、またよかったんだなぁ。散文詩なんですが、とてもカッコよく思いました。リリシズム(抒情性)という言葉を初めて理解したのは、たぶん詩集『北国』からではなかったかな。
今日の午後は三時間ちょっと大豆の圃場でマルバルコウソウをとったのだが、さて、もう終えようかという時は落日、日没の時刻でした。日没とか落日ということを思うとき、思い出す井上靖の詩があります。その昔、中央アジアの遊牧の民で、何度となく漢民族を苦しめた「匈奴」という騎馬民族がいたのをご存知だろうか。歴代王朝が北方民族の侵入を防ぐために戦国時代から造られた城壁ですが、秦の始皇帝匈奴に備えて大増築して「万里の長城」になっていきました。匈奴についてはあまり詳しいことはわかっていないようですが、今のフン族匈奴の末裔ではないか、と言われています。
で、たぶん井上靖匈奴という遊牧騎馬民族をどこか好ましく思っていたんでしょうね。




     「落日」
 匈奴は平原に何百尺の殆ど信じられぬくらいの深い穴をあがち、死者をそこに葬り、一匹の駱駝を殉死せしめて、その血をその墓所の上に注ぐ風習があった。雑草はただちにしてそこを覆い、その墓所の所在を判らなくするが、翌年遺族たちは駱駝を連れて平原をさまよい、駱駝が己が同族の血を嗅ぎ当てて咆哮するところに祭壇を造って、死者に供養したと言う。 私はこの話が好きだ。この話の故に匈奴という古代の遊牧民族を信用できる気になる。因みに彼等の考え方に依れば、そのような平原を地殻と言い、そのような平原の果てに沈む太陽を落日と言う。そしてまたそのような平原に降り積む雪を降雪と言うのである。




散文詩なので、こんな体裁です。短く言葉をそぎ落としきって、リリシズムにあふれていますね(笑)。僕はこの話が好きで、落日とか日没とかを見ると、ときどき思い出してしまいます。ええ、中央アジアの平原は見たことがないので、田んぼの広がる景色、大豆畑の景色ではあるのですが。