現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

「Hunger is the best sauce.」とマルクス・トゥッリウス・キケロへの書簡と蕗味噌と


 天気が良かったので、久しぶりに霜の朝となる。風もおさまっていて散歩にはうれしい。RX-100のマクロ撮影であちこちシャッターを押しながら犬と歩く。レノン号も天気がいいし、なんだかご機嫌(笑)。
 昨日から目をつけておいたフキノトウをカメラに収めながら採取していく。むふふふ。うちの無農薬の田んぼの畦畔に毎年フキノトウが出るんです。ここなら犬のオシッコも車の排気ガスも被っていないのが採れます。


 というわけで一日だけの断食を無事に終え、朝の散歩のあと静かに朝食をとる。ま、あまりこってりとしたものはよくないらしいので(一日だけの断食なので、ま、なんでもいいんだろうけど。)、お茶漬けとシジミのみそ汁をいただく。うまいですな(笑)。空腹こそ最強の薬?空腹こそ最高の調味料?そんなこと云ったのは誰だったか?
「Hunger is the best sauce.」
(空腹は最上の調味料である)

 調べてみたら、ローマ帝国時代の哲学者キケロだそうです。キケロ?オイゲン・キケロというジャズピアニストがいましたけど・・・。古代ローマ共和国だと紀元前のお方?世界史の授業で習ったような習わなかったような(笑)。岩波文庫に『書簡集』があったのを思い出しました。


 早春の候 庭の梅の花が満開です。今年は暖冬で桜も例年より一週間ほど早く咲きそうだということです。
 キケロさん、あーたの言葉を2000年後の世界の片隅でしみじみ味わっているオジジがここにおりまするよ。おめでとうございます。貧富の格差は2000年後の世界でも相も変わらず続いています。今、あーたの人生を簡潔すぎるくらい簡潔にまとめたネット上の百科事典『ウィキペディアWikipedia)』で読んでおります。あーたの63年間の人生はなかなかに波乱に満ちておるようですが、この言葉はいつ頃発された言葉なんでしょう。あーたはもちろん貧富で云えば「富」のほうにおられた方なんでしょう。だいたい「空腹は最上の調味料である」なんて言葉は、普段は空腹とは無縁の人間の発する言葉ですね。あーたは哲学者ですから2000年後の世界を想像できるかどうかわかりませんが、でも難しいとは思います。「人類の進歩と調和」というスローガンが半世紀前にこの世界の片隅でつぶやかれたことがあるのですが、科学技術がすすんで、人々の暮らしは大きく変わりましたよ。でも人類に「進歩と調和」ができているのかというと、はなはだ疑問です。あーたの時代以上に貧富の格差はひろがっているのです。あまりにひろがっているので、そのとてつもない格差の中で、下を見れば切りがなく、上を見ても切りがなく、私などは自分が「貧」なのか「富」なのか、わからないくらいです(笑)。ただ文字通り額に汗して働く労働者であることを誇りとして生きようとしています。これでいいんですよね?
 私の暮らしている地域では飢えている人はあまり見ません。でも見せられていないだけで、地球上には飢えている人、飢えて死んでいく子供たちもたくさんいます。同時に、せっかく作られ、調理されてテーブルの上にのった食べ物を食わずに捨てるなどということもひっきりなしに行われています。私は百姓で、農作物を作っていますので、そうならないように気をつけていますが、食べ残しもあるし、電気冷蔵庫の奥で食べ物を静かに腐らせてしまうこともあります。珍しいというだけで、地球の裏側から飛行機で運んできて一口だけ食べてあとは残すなんてことをしている人もいます。そうして汗をかく仕事は蔑まれて、農業も若い人がやりたいという人は少なくなりました。
 昨日は一日、白湯だけで過ごしてお腹の中を空っぽにして胃腸を休ませてやりました。36時間ぶりに食事をしましたが、とてもおいしくいただけました。まさに「空腹は最上の調味料である」でした。おめでとうございます。あーたの発した言葉は2000年後の世界でもちゃんと生きています。
 あーたの魂が今どこにあるのか私にはわかりませんが、できましたらこの2000年後のどうしようもない世界で生きている人間を応援してください。私はスローガンを振り回されるのは嫌いですが「人類の進歩と調和」という響きがわりと好きなのです。一人ではなかなか生きづらいし、家族ができれば自分のこと、自分の家族だけ考えていただけでは、やはり生きづらいですね。
 このあたりでは啓蟄もすぎ、本格的な春の季節を迎えつつあります。今朝はフキノトウをうちの田んぼの畦畔から採ってきました。味噌と一緒にいただきます。
 どうぞご自愛くださいますように。
 ありがとうございました。
                                                            頓首
マルクス・トゥッリウス・キケロ
                                                     辻井農園 辻井浩昭


 午前中は少し事務仕事をして、でもネットの記事を読んだりラジオで落語を聴いたりしていたらお昼になってしまう。ラジオの落語は入船亭扇辰さんの「紫檀楼古木(したんろうふるき)」で、初めて聴く噺でしたが、おもしろかったです。


 午後いちばんに、朝採ってきたフキノトウで蕗味噌を作る。ええ、ネットで検索するとレシピはたくさん出てきますね。もう20年ほど前になるのか、パソコン教室でアルバイトをしたことがあるのですが、ちょうどインターネットが普及した頃で、おじいさんや主婦さんに教えたのですが、ネットのお勉強では、今晩のレシピを探してみよう、というのが、皆さん一番たのしそうにしておられましたね。
 そんなこんなで僕もレシピを検索してやってみました。ええ、調理時間はおおむね10分ぐらいですね。自分の飲む酒のアテを自分で作るわけですから、時間は短いほうがいいのです。調味料はサラダ油と味噌とみりんと砂糖ですから、たぶんどこの家の台所にもありますよね。
 あのね、あーた、自分で蕗味噌つくってみたことある?僕も今日初めて作ったんだけど、今まではね、冷えた蕗味噌を食べていたのよ。冷蔵庫で保管したりね。それをアツアツのご飯にのせて食べれば、おいしいんだけど。あーた、出来立てのほかほかのあたたかい蕗味噌、舐めてみなさいよ。めっちゃうまいから(笑)。
 蕗味噌を辞書で引いてみたら、
 「ふきみそ【蕗味噌】 蕗の薹(とう)を刻み込んだ焼き味噌や練り味噌。苦みと芳香がある。」
ええ、苦味と芳香があるんですな。日本酒にあいますがな。


 採ってきたフキノトウをまな板へ。ちょっと小さいのもある。がそこんところは気にしない。

 包丁で刻んでいきます。ええ、ままごとみたいだけど。

 先に味噌にみりんと砂糖を入れて混ぜ合わせておきます。

 油をひいたフライパンで一分ほど炒め、その後味噌を入れてまた三分ほど炒めます。


 完成!とてもおいしい。苦味と芳香。日本酒を冷やでいただきまする。



 その後、少し酔った勢いで、市川崑監督『娘の結婚』(2003)を観る。これはテレビドラマなの?しかし、まあ、小津安二郎『晩春』のリメイクですな。鈴木京香はすばらしかったけど、長塚京三がねぇ。『晩春』はたぶん二度DVDで観てるけど、スバラシイという印象だけのこっているので、原節子笠智衆にはねぇ。だいたい2003年にあんな言葉遣いで会話している人がいたのかなぁ(笑)。ただ市川崑は自分の世界をつくっていますね。さすがです。そういえば一時期、長塚京三が妙に人気のあった時期がありましたね。うまい役者だとは思うけど、サントリーのCMがらみだったのか。うんうん。


 そんなこんなで、ろくに事務仕事もすすまない好天の土曜日でした。ええ、明日は頑張りますとも。