現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

畔塗りと草刈りとピカソのこと




 朝は雨が止んで晴れてきているようだけれど、風が強い。昨日の雨でプール苗代の水を落としていたので、様子を見に行く。母に水を入れてくれるように頼んで、僕は浸種の水を交換して、畔塗りに出る。しばらく雨がなくて土が乾いていたので、雨を待って塗ろうと思っていた圃場があるのだ。そんなこんなで昼過ぎまで畔塗り。
 午後は畦畔の草刈り。たぶん、これで畔塗り前の草刈りは終わったので、あとはもう少し畔塗りをがんばるだけだ。
 夕方、畔塗り機を水洗いする。明日は一番に畔塗り機の爪を交換する。爪が減ってくると土を掻く量が減るので、うまく畔が塗れないのだ。


 夜、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督『ミステリアス・ピカソ - 天才の秘密』(1957)を観る。うーむ。スバラシイ!動いて絵を描いて喋るピカソを初めて観た。あたしゃ、あーた、学生時代に講談社から出たピカソ生誕100年記念の『ピカソ全集 全8巻』を刊行と同時に大学生協で予約して隔月刊で出たのを買っていたんです。一冊5600円もしたんですけど、なんでそんな贅沢な買い方をしたのか、今でも不思議だが、たぶんバイトをしながら買っていたんでしょうな。
 もう一つ不思議なのは、大学一年の夏にひと夏ずっと工場の夜勤のバイトをして、そのバイト代をまるまるあてて『定本柳田国男集』を全巻揃いでポンと新刊で買ってしまったことだ。もちろんキャッシュの一括払いであります。大学生協の書籍部の怖い顔で有名だったおばちゃんも、この気前のいいキャッシュ払いの学生に驚いたのか、まじまじと顔を見られて「おもしろい人なの?」と訊かれたことを思い出します。だって19歳になったばかりの学生の買う本じゃないもんね(笑)。
 ああ、思い出したけど『MAD』『Down Beat』なんかも英語版のやつを取り寄せてもらっていて、隔月間と月間でしたが、受け取りにいくと、ともに薄くて粗雑な作りの雑誌で、予約の本の中で見つけ難いのか、いつも黄色い付箋が付いていて、さっと出してもらったのも印象に残っています。
 あの怖い顔で有名だった書籍部のおばちゃんも今ではけっこういい歳になっておられるはずです。
 ずいぶん話が飛んでずれてしまいましたが、『ミステリアス・ピカソ - 天才の秘密』はおもしろい映画ですよ。ピカソが絵を描いていく過程を追っていくんです。長いインタビューもピカソの説明もありません。ただピカソが絵を描いていく過程がわかります。最初はマジックペンで描いていくのです、もちろんこれも悪くないですが、圧巻は後半の油絵のところ。すばらしい!油彩のいいところは塗りつぶすことができることなんですけど、何度も、何度も、塗りつぶして、どんどん絵が変わっていくんです。いやー、これはまさにドキュメンタリー映画ですわな。完成された(?)絵の全集本ではわからないピカソの秘密がここにあります(笑)。水彩と油彩の一番の違いはここにありますな。全集のあの絵を観て、ピカソが最初はこんな絵を描こうと思って描きはじめたわけではないことがわかっただけでも収穫です。
 開高健に『ピカソはほんまに天才か?』という文章があります。開高はピカソが天才であるということに疑問を挟みたい素振りですけれど、ええ、開高のいいたいことはわかりますが、たぶん、間違いなく天才です。って今更僕が言うことでもないですが。だいたいあの多作ぶりだけでも天才です。いや、あの多作ぶりをみて、天才を疑う人もいるのかもしれませんが、本当の天才は多作です(笑)。モーツァルトも多作ですよね(笑)。それにパンツ一枚で描いてます(笑)。パンツ一丁で女性のヌードを(男性のヌードも)描くのですよ。さらに線に勢いがあるのもわかります。やっぱりピカソは天才ですわ、開高さん。