現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

内田樹氏の「TPPを知るヒント」


うわ、競馬のWin5的中が1票で払戻金は上限の2億円だそうです。京都大賞典というレースで大波乱があったからのようですが・・・。いやだなぁ。困るなぁ。そんなにもいらないんだけどなぁ。


と思っていたら、思い出した。金曜日、農協に行く用事があって、って年貢の振り込みですが、待っている時間に、表紙の上戸彩ちゃんに惹かれて『家の光』の11月号を手に取ってみたら、やまけんさんの「日本の食はほんとうに高いの?」とか、あれこれおもしろそうな記事が目に付いたのだが、中でも内田樹氏の『TPPを知るヒント』でしょうか。以下、その要約。


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私は、食料は「商品」ではないと思っています。確かにお金を出せば、スーパーでお米や野菜を買えるし、レストランで食事をすることもできる。しかし、それは今、たまたま市場にたくさんの食料があるからなだけ。もし、天候の変化などで流通量が減ったら、食料は「人の生死」に関わるものとなるのです。
これは、他の商品とは全く異なった性質です。例えば僕が使っているパソコン、便利だけれど、ないからといって死ぬことはない。車だって、携帯電話だって同じです。しかし食料はそうはいきません。
TPPを進める人たちは、自由貿易により、食料はじめとした海外の安い「商品」が入ってくれば、日本人の生活は豊かになると言っています。しかし彼らは、輸出国で内乱が起こる、石油の高騰で輸送ができなくなる、日本の通貨が暴落して海外からものが買えなくなる、そんな可能性は考えていないのでしょうか。
この数十年間、海外からの輸入を含め、日本では食料が安定的に供給されてきた。今の若い人は、食料が枯渇する体験をしたことがない。食べ物なんて、お金を出せばいくらでも買えると思っている。でも、お金を出しても買えなくなることがある、その時は人が死ぬことになるのです。私は国民国家の存立には、自由貿易よりも食料の自給の方がはるかに大事だと思っています。
食糧生産する農業について、最近、気になる言葉があります。それは「強い農業」。メディアも政治家も口をそろえて「規模拡大」とか「国際競争力をつけなければならない」なんて言っていますが、これは大きな問題が潜んでいると思います。規模を大きくすると言う事は、大型機械を使い、少ない種類の作物を大量に生産するようになるということ。生産性は上がりますよ。企業による農業も盛んになるかもしれません。そして一部が「日本農業の成功例」なんて言って紹介されるんです。
では、その周りの中小農家はどうなるか。経営が成り立たなくなって、農業をやらなくなる。優良な農地は大規模農家や企業に集中していき、中小農家は、労働者として雇用される立場になるんでしょう。
「強い農業」「儲かる農業」は、これまで多くの農家が少しずつ持っていた富を、 一部の人や企業に集中させることにつながるんです。果たしてこれで、地域コミュニティーは成り立つのでしょうか。


いま述べたように、例えば食料自給の観点から、僕はTPPに反対ですが、 TPP推進派の人たちには、自給なんて問題ではないんですよね。彼らが大事だと思っているのはただ1つ「日米同盟」です。
戦後68年、日本はアメリカと共に歩んできました。その間に、日本の政治家、官僚、経済界、メディアでさえもが、日本の国益を確保するには、アメリカのの国益を最大限にしなければならないという考えを持つようになった。つまりアメリカの国益が最大になるように振る舞うと、日本はそのおこぼれにあずかるというのです。彼らの重視するのは、アメリカが喜んでくれるかどうか。そのためには国内市場もアメリカの多国籍企業に開放するし、日本農業が壊滅してもかまわない、とさえ思っているのではないか。
過去、アメリカと日本の国益が衝突すると、どんなことが起こったか。例えば、アメリカより先に中国と国交を樹立させた田中角栄元首相は、ロッキード事件で失脚しました。普天間基地沖縄県からの移設を主張した鳩山由紀夫元首相は、その後どうなったか、アメリカの意向を無視し日本の国益を主張すると痛い目に会う・・・。このことが、日本の政治家と官僚には強く刷り込まれているのだと思います。


日本でTPPを進めようとしているのは、アメリカにひたすら「従順」な人たちです。では、アメリカ国民みんながTPPを歓迎してるかというと、じつは違う。
現在、アメリカの国政に対し、最も大きな影響力を持っているのは、巨大な多国籍企業です。多国籍企業は、世界各国に工場や事務所を持ち、アメリカ、日本、中国、ヨーロッパなど、国境を越えてビジネスを展開しています。そして巨大多国籍企業こそが、 TPPに象徴されるグローバリズムを強力に推し進めています。彼らは豊富な資金力を背景に、官僚や議員、大統領らにさまざまな「圧力」をかけ、実際、アメリカの政策や外交戦略に大きな影響を与えている。彼らが求めるのは、自分たちや、自分たちに投資してくれる株主の個人資産を増やすための政策です。ある社会集団、いわゆる1パーセントの超富裕層の利益のために、アメリカの国政が大きく歪められているのが実態。 TPPは、アメリカの国益ではなく、 1パーセントの人たちの利益のためのものです。大多数のアメリカ国民にとっては、何の関係もないんですね。
超富裕層が、国益とは関係ない、自分たちの利益のために国を動かしているのは、アメリカに限った話ではありません。日本も同じです。例えば、生まれは日本だけど、小さな頃から海外と行き来して英語はペラペラ、大学はアメリカで、カナダに別荘があり、現在はベトナムでビジネスを展開している・・・。世界では「グローバル人材」なんて呼ばれていますが、こんな人たちが超富裕層を形成し、政府の諮問機関のメンバーなどにも名を連ねて、日本の政策に大きな影響を与えています。
現在、世界中でグローバル化が進んでおり、各国は急速に「同じような社会」になってきている。そして、商品、お金、 人 、情報などが国境や言語などの壁を通り越して、超高速で自由に行き来している。そして、多国籍企業は、世界中どこでも同じように働くのことのできるグローバル人材を求めています。グローバル人材は辞令1枚で翌日から海外に赴任することになるでしょう。でも大丈夫。英語はぺらぺら、現地の暮らしにもすぐ慣れることができますから。そして、最初はアメリカ、次にウルグアイ、その次はモンゴルと彼らは一生日本から離れていても平気なんです。
政府は、国を挙げグローバル人材を育成しようとしています。でも、僕はおかしいと思う。グローバル人材は「本人がいないと困る人が誰もいない人」です。その人を頼りにする家族や地域の仲間はいない。本人も、自分はどこでも生きていけると思っている。替えはいくらでも利く人間です。そうでなければ、辞令1枚で翌日に海外にはいけない。
グローバル人材の対極にあるのが、例えば、日本語しか話せない人、日本の食べ物を食べたいと思う人、日本国内でしか生きていけない人たち。日本人のほとんどが含まれそうですね。この人達は「地に根を張った人」ということもできる。大切な家族や友人がいて、その人がいないと成り立たない地域の共同体があって、他の誰とも替えが利かない。そして、そんな、日本文化の中で一生暮らしていきたいと思っている人です。それなのに、そうした人たちの声は、政治にはあまり反映されていない。
TPPに参加したら、日本に根のない「グローバル人材」になれ、なれないなら、国内で多国籍企業に安く雇用されろ。そんなことを強いられる世の中になりかねないのです。


ひと月の残業時間が百時間を超えるのに、残業代は支払われず、安い賃金でボロボロになるまで誰かされる。「ブラック企業」など雇用環境の悪化が社会問題化していますが、 TPPに参加したら、使い捨てにされる労働者はますます増えるでしょう。だから、若い人たちの中には、「お金がなくても質の高い生活をするにはどうしたらいいか」ということを考える人も増えています。僕の教え子にも、農業やりたいという子がたくさんいました。二十年前には考えられなかったことです。
経済成長を続けろ、 GDP国内総生産を増やせという人がいますが、お金が全てという価値観は、もう終わりにしませんか。 GDPなんて、みんながお金を使えば上がるんです。例えば、環境が悪くなり水道水が飲めなくなったのでミネラルウォーターを買わなければならなくなった、治安が悪くなったので民間の警備会社に自宅を守ってもらわなければいけなくなった、こうやってお金を使えばGDPは増えます。でも、それが幸せな世界なのでしょうか。
お金なんて、しょせん「交換」のための手段。要は、モノやサービスがうまく循環すればいい。物々交換だって1つの方法ですよ。僕が今使ってるパソコンの設定、業者に頼めば数万円はかかるでしょう、知り合いが好意でお金をかけずにやってくれました。だからお礼にワインをあげた。もちろんそのワインもお中元の貰い物(笑)。グローバリズムに対抗するため、親族や知人、地域共同体が持つ役割、価値をもう一度見直してみませんか。そして、相互扶助、相互支援のできるネットワークを作っていく。生産者と消費者もそうですが、顔の見える関係って大事だと思うんです。
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お金というものは、しかし、不思議な(?)力を発揮するものなんだろうな。播いた種から芽がでてくる命の不思議な力とは、また別の次元で。


TPPは、農業の問題だけでなく、やっぱり世の中の格差を広げて、あれこれなにかと暮らしにくくなると思うので、私は反対です。