現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

採種用のナタネの刈り取りと開高健と村上春樹


朝の田回りで、種取り用のナタネの種が黒く熟してきてすぐにさやからはじけそうになっているので、今日はナタネの刈り取りをすることにする。
「することにする」とは言ってもナタネを種を採るなんてことはしたことがないし、父や母も若いときにしかやったことがないとのこと。
とりあえず、刈払機で刈り取って、軽トラの荷台にビニールシートをおいて、その上にどんどん積んでいけばいいか、ということになったが、実際刈払機で刈り倒してみると、もうその振動で鞘から種がはじけてしまったりするので、計画を変更して、ナタネの圃場にムシロを敷いて、その上に刈り取ったナタネを積み、足でグリグリギュンギュン踏んづけ、種をはじかせて、茎や鞘を取り除くという方法に変更。
ちと刈り取りが遅れたのですね。一番実っていい種は刈払機ではじけてしまった模様。やれやれ。とはいえ、弾け飛んだナタネは来年の田んぼのいい肥料になることでしょう。なんて言ったって、ナタネの油を搾り取った油かすがとてもいい肥料になるんですから、まだ絞り取っていない油付きの油かすなんですから、楽しみ楽しみ。カラカラの鞘やら茎と一緒にあとで鋤込むことにします。
そんなこんなで父と母と三人で一日がかりで一反分のナタネを収穫したのでした。どれくらいの量になったのかは、唐箕で鞘とかゴミを取り除いてみないとわかりません。


いや、暑かったです。おかげで少し早めにいただいたビールのおいしかったこと!


去年の秋、ナタネの播種用の種は農協で注文したら1kg2898円(1kgですぞ!)していて、まあ、米農家としては米1kgとつい比較してしまうので、驚いたのでした。60kg、1俵あたりに計算すると173,880円!えーっとまあお米の値段と一桁違うのです。いやもちろん1反当たり米のように8俵9俵と取れるわけではないので(ナタネの収穫を目的にきちんとつくったらどれくらい取れるものなんだ?2俵ぐらい採れるの?)
まあ、そんなこんなで農産物の値段を考えさせられる一日だったし、このあたりの農家はほとんど米農家なんですけど、緑肥にナタネだとかヘアリーベッチを使ってみるだとか、ナタネの種を採るなんてことは誰もしていないので、誰もしていないことをする、といういうのはそれだけでなんだか心躍ることなのでありました。ま、実際のところ笑われているかもしれないのですが、20年産の菜の花緑肥の完全無農薬有機栽培のお米は収量はいくぶん落ちましたが、食味検査でも、お米のコンテストでも優秀賞をいただくほどのお米になったのですから、方向性としては間違っていないと思いたいところです。というわけで、来年三年目の菜の花緑肥の完全無農薬有機栽培米は自家種の菜の花緑肥になります。そうして4月の入学式の頃、小学校の周りの田んぼに菜の花が咲いているようにしたいものだと考えています。ええ、来年の話です。鬼も笑います。たくさんの新入学の子供たちやそのお父さんお母さん、地域の人たちに笑顔になってもらいたいですな。


1Q84』。おっとそうきたか!という展開。もう文体が体になじむという感覚では僕の場合圧倒的に開高健村上春樹。70年代後半、すでに開高健は文豪だと思っていましたが、文庫本で読む旧作も雑誌や単行本で読む新作もいつも圧倒的な迫力でした。村上春樹は『1973年のピンボール』(1980)からキックを受けて『羊をめぐる冒険』(1982)で圧倒されて、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)でツレと喫茶店で「村上春樹、うまくなったなぁ」と話したのをまざまざと覚えています。あ、その前に『中国行きのスロウ・ボート』があったか。『回転木馬のデッド・ヒート』もしみじみ体になじんだし、『東京奇譚集』(2005)でも、村上春樹の新作を語り合えるツレはいなかったけれど、「あれ?またいちだんとうまくなった?」とつぶやいたりした。


開高健は学生時代の時間のあるときに読んだので何度も繰り返し読んだけど、村上春樹はあまり再読できていないけれど、新作を読むたびに体になじむ文体というのはいつも感じます。藤沢周平は上品でしみじみとして達意の泣ける文体だけど、文章のセンスは開高健村上春樹とは全然違います。


それからあのね。村上春樹芥川賞にノミネートされたとき第81回の『風の歌を聴け』と第83回の『1973年のピンボール』の時、開高健は選考委員だったのだけど、選考の評でも一顧だにしていません。たぶん開高健のエッセイでも村上春樹の名前は一回も出てこないと思います。いや、それはそれでよくわかるのですし(僕の勘では開高健はすでにというか早くも芥川賞の選考委員を真剣にやっていなかったのではないかと思います。だって、開高健の評を読めば熱いものは伝わってこないもの。)、最近読んだ『モンキービジネス vol.5 対話号』の古川日出男との対談でも文壇から受けた仕打ちについてはいささか発言がありました。で、そんな開高健村上春樹が僕自身、体になじむ文体だということにいささか違和感はあるのですが、この二人は圧倒的に体になじむ文体なのです。どうしようもありません。


1Q84』は二巻本なんですけど、一巻が500ページほどあります。紙が少々薄いのかなぁ。500ページの割には薄い本に仕上がっていて、それもなんだか好感が持てるなぁ、などと布団の上でゴロゴロしながら夜と早朝に読んでいます。うーむ。