現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

苗箱を苗代に出したことと「尻踏み」作業と茨木のりこ


八十八夜
午前中はプール苗代に苗箱を出す。
朝のうちは曇っていたが、次第に晴れてきて、汗だくになる。
ただ苗代の作業をしているときはほとんど風がなく、最後の方にちょっと吹いたけど、作業がしやすくてありがたいことでした。


午後は「尻踏み」作業。風が吹いて、田んぼの水が浅水だと風下側に吹き寄せられて、均平がさっぱりわからない。


田植え予定の5日は雨なのか?


ラジオを聴いていたら、高橋源一郎氏が茨木のりこさんの詩を紹介していた。


  汲む―Y・Yに―


    大人になるというのは
    すれっからしになるということだと
    思い込んでいた少女の頃
    立居振舞の美しい
    発音の正確な
    素敵な女の人と会いました
    そのひとは私の背のびを見すかしたように
    なにげない話に言いました


    初々しさが大切なの
    人に対しても世の中に対しても
    人を人とも思わなくなったとき
    堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
    隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました


    私はどきんとし
    そして深く悟りました


    大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
    ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
    失語症 なめらかでないしぐさ
    子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
    頼りない生牡蠣のような感受性
    それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
    年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
    外にむかってひらかれるのこそ難しい
    あらゆる仕事
    すべてのいい仕事の核には
    震える弱いアンテナが隠されている きっと……
    わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました
    たちかえり
    今もときどきその意味を
    ひっそり汲むことがあるのです



もうひとつ。


  自分の感受性くらい


    ぱさぱさに渇いてゆく心を
    ひとのせいにはするな
    みずから水やりを怠っておいて

 
    気難しくなってきたのを
    友人のせいにはするな
    しなやかさを失ったのはどちらなのか

 
    苛立つのを
    近親のせいにはするな
    なにもかも下手だったのはわたくし


    初心消えかかるのを
    暮しのせいにはするな
    そもそもが ひよわな志にすぎなかった


    駄目なことの一切を
    時代のせいにはするな
    わずかに光る尊厳の放棄


    自分の感受性くらい
    自分で守れ
    ばかものよ


  

しばらく、忘れていたが、ときどきは思い出してみなくてはいけません。本棚から茨木のりこの詩集を出してきて、ぺらぺらしつつ、ビールを飲んでいます。窓の外からはカエルの大合唱が聞こえています。