現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

「パッとこの、女ごが惚れてくるちゅな工夫おませんやろか?」と『街とその不確かな壁』


↑母が園芸用のネコヤナギの花(この白いところ)が大きいのを刺し芽で育てたのが大きくなってきました。すぐ大きくなりますよね、柳だから。
でもちょっとお天気が悪くて光ってませんな。

 「あのなぁ、パッとこの、女ごが惚れてくるちゅな工夫おませんやろか?」
 「昔からえぇことが言ぅたぁるがな。いちみえ、におとこ、さんかね、しげぇ、ごせぇ、ろくおぼこ、ひちぜりふ、やぢから、きゅ~きも、とひょ~ばん ちゅう言葉がある」
 というように始る落語が『いもりの黒焼き』です。
 古い落語らしいですけれど、私は桂米朝さんの音源を持っているので、ときどき聴いています。好きな噺の一つです。アホらしいようなばかばかしい噺ですけど(笑)。女性に好かれたいという男が長屋の甚兵衛さんのところに相談に来るんですなぁ、
 ・「一見え」、なり、形やなぁ「あぁ、いつ見ても身なりを落とさん、あの人はいつも気の利ぃた身なり、格好してるやないか」といぅだけでも、やっぱり惹かされるもんやで。
 ・「二男」、男前が良かったら、こら女が惚れてくるわいな。
 ・「三金」と言ぅてな、金がありゃぁえぇわいな
 ・「四芸」と言ぅてな、芸、芸事。
 ・「五精」と言ぅてな、まぁ少々顔が不細工でも、人間がちょっと鈍ぅてもやで、精を出して一生懸命真面目に働いてると、またその人間を見込んで来る人があるがな。
 ・「六オボコ」と言ぅてな、オボコかったらまた年増が惚れるなぁ「可愛らしぃとこあるなぁ、あの人は」ちゅうて
 ・「七台詞」ちゅうてな、セリフ。人中でセリフが立つちゅうのはえらいもんやで。なんか揉め事や喧嘩が起こってもあの人が仲へ入って口利ぃてれたら収まる、人間に値打が付くがな。
 ・「八力」と言ぅて、力やなぁ。値打ちのある力やがな。相撲取りは昔から女が騒ぐやないかいな。
 ・「九肝」と言ぅて、肝っ魂やなぁ、度胸。度胸がえぇっちゅうのは大したもんやで。
 ・「十評判」と言ぅてな、評判が良かったら「どんな人やろぉ?」と、顔も見ずに惚れて来る。これが一番得やないかい。

 なるほど。昔からえぇことが言ぅたぁりますな。しかし、こういうことは今も昔も変わらないことなのかな?変わらないことでしょうなぁ。そうして10項目もあるので、まあ、考えてみればたいていどれかひとつぐらいは当てはまるんじゃないの?ちゃんとと、「五精」に「精を出して一生懸命真面目に働いてると」という、何にも才能がなくても、真面目にやっていれば大丈夫という、ある種の救いがあるような気がしますな。

 我が身のことを考えてみると、これがなかなか、あーた(笑)。何を今さらというか、これは若い人に向けた話であって、オジジにはまた別の10項目があるような気がするけど。
 「色男(?)、金と力は無かりけり」と言うように「三金」と「八力」が無いのは間違いないが、金と力が無いからといって、じゃ、そういう男がみんな色男かというとそうでもないしなぁ(笑)。え、これは江戸時代の話なので、「力」というのは相撲取りが出てくるように単に「力持ち」ということなんでしょうね。現代社会で「力」というと「権力」という感じになりますよね。
 ここは個人的にはやっぱり「五精」に頼らんならんですな。大工の棟梁をしている同級生が「昔から、知恵を出せんもんは汗を出せ、ちゅうて言うやろ」とよく言っていたのを思い出します。「精を出して一生懸命真面目に働いてる」というところを見てもらうより仕方がないんですが、そういうように自分から言わねばならんのが、「粋」じゃないですな(笑)。
 ま、うちの奥さんに「わしのどこがよかったん?」と訊いてみてもええんやけど。「アホクサ。」と一蹴されそう(笑)。ま、そんなもんですよね。
 などと私の男女の色恋問題などとうの昔に終わっているのですが。

 村上春樹『街とその不確かな壁』(新潮社)読了。今さらですが、楽しめました。1200枚の長編小説。けっこうな長編小説を最後まで読み通したのはいつぶりだろう。久し振りのような気がする。なんというか文体がなじむなぁ。
 めずらしく「あとがき」がついていて、この長編小説ができ上がった事情が書かれていて、それもおもしろく読めました。なるほど。それであれこれ既視感のある場面があるんだろうな、って納得がいきました。
 しかし、なんですな。村上春樹はずっと疎外感というか、何かにうまくなじめない、というところから話がはじまっていくんですね。デビューからずっとそんな感じ。でもって、僕が18歳の時から読んでいるんですが、その頃から本が出たらすぐ買って読む、ということをしてきたんですが、ここ10年くらいはすぐ買ってもなかなか読めない、という状況になってきています。あと「村上ラジオ」だったかで、話す声を聴いたのも、ある意味、ちょっとショックで、こんな声で、こんな話し方なのか、というのもありましたね。
 ただ。やっぱり村上春樹の描く女性は妙にいいんだなぁ。いや小説に出てくる女の人はたいてい魅了的なんですけどね、たいてい。たとえそれが悪女でも悪女なりの魅力を感じます。でも村上春樹の描く女性とか女の子は妙に好感が持てるんだなぁ(笑)。宮本輝とか志水辰夫の描く女性ももちろんいいんだけど、どこか刺激される部分が違うんですよね。『街とその不確かな壁』では思ったほど女性は活躍していませんが(?)、なんか、いい感じです。