現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

アイデンティティと味覚

12日付けの中日新聞の『紙つぶて』というコラムで宮内勝典「満開の桜の下で」という文章を載せている。
満開の桜の神田川沿いを散歩しながら民族とは何かを考えたというのだ。そして次のようなエピソードを思い出す。以下は引用です。

かつて客員教員をしていた大学が見えてきた。当時、教え子のなかに華僑二世の青年がいた。たじたじとなるほど優秀な学生で、オックスフォード大学に留学して、今もイギリスで暮らしている。その教え子が久しぶりに日本に『帰って」きたとき、わが家で鍋を囲んだことがある。北海道から送られてきた魚貝やカニのすり身。つみれ鍋であった。教え子は戸惑いがちにそれを食べながら、ふと一つの想念が閃いたようにつぶやいた。
「いちばん強いアイデンティティは、国籍でも言葉でもなく、味覚に基づいているのかもしれませんね」
それから映画『ゴッドファーザー』の話になった。故郷のシシリー島に戻ってきた老マフィアが、オリーブ油に指を浸し、その指先を母の乳首のように口にふくみながら、うっとりと恍惚の笑みを浮かべる場面を思い出したからだ。
味覚の記憶こそ、最も強いアイデンティティの源泉かもしれない、満開の桜の下を歩きながら、そんなことを埒もなくぼんやり考えていた。


いい文章ですね。って、おこがましいですけど、よい文章です。
たとえば。滋賀県には鮒寿司という熟れ鮨の郷土料理(?)があるのですが、これが、うまい。酸っぱくて臭いけど、うまいですな。鮒を釣る人や本当に好きな人は自分でつけたりもしておられますが、少なくなってきているでしょう。発酵食品ですからつけ方によって微妙に味が違ってきますから、贔屓の店が出来ます。どこで買っても同じ味というわけにはいきません。うちの家で買うお店と奥さんの実家とではお店が違いますし、奥さんに実家にきた若いお嫁さんはまた別のお店から買ってくるそうです。
これがでもその酸味と匂いのために食べられないという人もそこそこいるのです。あんなにおいしいのに。少々値が張りますのでうちでも盆や正月にしか食卓に並びませんけど、でも鮒寿司をおいしいと食べる人には妙に親近感を感じますね。
うちの奥さんの得意料理の筆頭はハンバーグだと思います。他にもありますし、子どもッぽい料理のように思われるかもしれませんが、これが、なかなか、いけます。長女がすこしづつ台所でケーキやクッキー作るようになりまして、うちの奥さんの指導が入っているのですが、これもおいしくなってきました。ハンバーグや煮物漬物にも挑戦して欲しいところ。
海外に長くいるとインスタントでもみそ汁や漬物が欲しくなるという話はよく聞きます。みそ汁や煮物など、微妙な調味料のさじ加減のいるものはもちろんですけど、ご飯もそうであって欲しいと思っています。今ではほとんど炊飯器まかせになっていますが、そこはもとのお米の味で勝負というところでしょうか。朝、ちょっと早起きすると炊き上がりかけの、炊飯器から湯気を吹き上げているような、台所にご飯の炊ける匂いが充満している時に出会いますが、民族として、同族として、アイデンティティとして、忘れられないにおいのような気がします。


さて、夕方から雨。