現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

小寺賢一・桑山慧人『酒場図鑑』(技術評論社)を楽しむ。


今日は朝の散歩の時は降っていなかったが、妙に生ぬるい風が吹いていた。その後は降ったり止んだりの雨。
昨日、稲刈りも終了したのでありがたいが、なんだか気が抜けてしまったのか、明日が晴れの予報だからか、なんだかウダウダと過ごす一日になってしまった。


読書週間は10月27日かららしいけれど、やっぱり秋は灯火親しむ季節ですな。韓愈「符読書城南」という詩に「燈火稍可親」という一節があるそうです。秋の夜は灯火の下で読書をするのにいいよね、ということですが、漢字の書き取りで「灯下親しむべし」と書いてしまうのはよくある間違いらしいです。なんとなく灯下で親しんでしまうのは、秋の夜長を酒を酌み交わしてしまう景色が浮かんできたりします(笑)。灯火に親しまなくてはいけませんね。


さて、僕はこのところ車谷長吉の『蟲息山房から 車谷長吉遺稿集』(新書館)を枕頭において蒲団の中で、俳句や連句の歌仙をゆっくり読みながら楽しんでいたのだが、ここにきて急に夢中にさせる本があらわれた。『酒場図鑑』(技術評論社)である。実は正式には明日10月4日が発売日らしい。文章は小寺賢一氏、イラストは桑山慧人氏の図鑑である。僕はよく知らなかったのだが、最近は図鑑が流行っているらしい。


僕は、文体には、わりと敏感なんです。たぶん(笑)。で著者は、はっきり言うと遊んでいます。楽しんでいます。自分で笑いつつ書いています。そういう文体です。当然、酒も飲みつつ、台所でぱぱっと冷奴なんかに薬味をのせて少しアルコールの勢いも借りて書いています。ええ、そういうことが手に取るようにわかります。たぶん著者はオチョーシ者です。飲むとおそらく深酒するタイプですな。いらぬ情報かもしれないが、著者は落語とモンシロチョウの羽化についても詳しいです。なにせ小学校の6年生の時に体育館のステージで全校児童と先生方の前で落語と漫才を披露して拍手と喝采を得ていますし、小学3年生の時には、青虫がモンシロチョウに羽化するところを観察した夏休みの自由研究で滋賀県から褒められるという経歴があります。ユーモアと稚気、さらに緻密な観察力が素養として子どもの時からあるんですな。図鑑の著者としては最適といってもいいかもしれません。あ、いや、『フィールドガイド11 日本の昆虫』を書いた詩人の三木卓が個人的には一番だと思うので、図鑑の著者としては二番目に最適の人物としたい。


新宿のゴールデン街に約30年通っているらしいので飲み助にはちがいないのだが、文体がいいので、最初からどんどんおもしろく読めます。ええ。常連とよく来る客との違いとか、酒場の注文タイムスケジュール!とか、いきなり笑えます。ばかばかしいことを真面目にやっているので(笑)。ところがそういう最初からおもしろい本は普通は途中でちょっと中だるみする傾向がありますが、これがあーた、途中からどんどんさらにおもしろくなってくるので、夢中になってしまいますな。僕は第4章が好きだ。あ、第3章の「干物はエスカレートするつまみ 酒飲みにとっての干物の酒場的進化」の項も笑ってしまうが。ちなみに本のタイトルは『酒場図鑑』で図鑑と銘打っている割りには、図鑑という項が登場するのは第3章「酒場のつまみを喰らう」の中の「貝、エビ、イカ・タコ図鑑」「東西おでん図鑑」の二つの項だけです。要するにイラストと文章で楽しませる図鑑なんです。だからかな僕は第4章「酒場のほろ酔い講座」が楽しい。たとえば「居心地のいいカウンターとは」の項。”とくに小さな酒場ではカウンター越しに濃密なやりとりが交わされていることに気づくはずだ。機転の利く客が料理を受け取って新規客のために運んだりすることもある。そんなことは酒場でしかない。”とあるが、この機転の利く客というのは著者自身のことであろうと容易に想像がついて笑える。ええ、著者はどうやらオチョーシ者ですね。
オチョーシ者ですから、突然、クイズが出てきたりします。「イラストとクイズで学ぶ 肉&ホルモン部位カタログ」でもってこれが「5問正解で合格!」とか書いてある。うーむ合格しなかったら、どうなるのか、などといろいろ考えてしまう。図鑑ですから笑ってばかりではダメでちょっとこうやってお勉強もしてもらおう、という著者の配慮でしょうか。


そうそう第4章には「江戸の居酒屋を落語に学ぶ」という項が出てきて、ニンマリしてしまう。やっぱり落語好き。上方落語ももっと取り上げてほしいけど。著者は大分生まれの滋賀県育ちということらしいが、学生時代から(要するに酒を飲むようになってからは)東京で暮らしているので、どうしても酒場も東京中心の話になっている。えー、このあたりではホッピーなんて見たことないし、梅割りも知らないのでナゾのエキスも知らない。通称「キンミヤ」なる焼酎も見たことないような気がする。まあ、僕は自宅で飲むのがここ二十数年の習いというか基本なので、知らないのは僕だけかもしれませんが。
今では年に数回しか酒場とか居酒屋で飲まないようになってしまった僕のような男でも、「酒場は人」というか「酒場は主人の人柄」というのか、「いい飲み屋は主人がいいし客もいい」ということぐらいはわかっている。「酒場のマンウォッチング 酒場人物カタログ」もいい。”郊外の居酒屋ではよくある子ども連れ。夫婦はその店での出会いがなれそめというのがお決まり”に笑わされてしまう。「ほんなお決まりあるかいな!」と思わずツッコミを入れたくなってしまった。「酒場人物カタログ」はおもしろく発展しそうなので、さらに詳しく酒と肴をとことん楽しむための酒場人物列伝みたいな章があっても楽しいような気がするが、次回作の楽しみにしたい。


著者はFacebookにも参加しているようなのだが、今、気がついたけれども、これは大人が親しい仲間とSNSを楽しんでいる時の文体のように工夫してあるんじゃなかろうか。さらにこれまた今、思い出したが、昔、週刊の少年マンガ(なんだったかな?)に「ベラマッチャ動物学」という見開き二ページぐらいのマンガがあったんだが・・・、あれは誰の絵だったかな。この本の勢いは、あのマンガのノリに近い感じもしている。著者の小寺氏もよく読んでいたはずだ。あ、ググったら1972年の「少年サンデー」に連載されていたことがわかりました。うーむ。ずいぶん昔だな(笑)。
僕は本の後半になればなるほど、だんだん著者の巧まざるユーモアに笑いを誘われるようになってきました。著者がのってきている証拠です。著者はオチョーシ者ですから、調子に乗ってくれば、これは強いです。悪くないですな。悪くないです。
酒好きのみなさんにお勧めしたいと思います。地方の本屋さんにはなかなか並ばないかもしれないので、ネットでクリックして購入するのが確実のような気がします。