現代田んぼ生活 辻井農園日記

滋賀県の湖北地方で完全無農薬有機栽培米の「コシヒカリ」と「秋の詩」と「みどり豊」を作っている辻井農園のブログです。安心して食べていただけるおいしいお米をつくっています。

お米の発送とにしん蕎麦と「エミレーツ宣言」と空海と牧伸二と三木卓

 アラブ首長国連邦(UAE)で国連の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開かれています。気候変動対策と農業・食料システム強化の両立を図る「エミレーツ宣言」を採択したそうです。
 日本農業新聞の記事によれば、宣言の骨子は次のようなものだそうです。


 気候変動対策と農業・食料システム強化の両立を図る宣言ですけれど、どう思われますか。
 いや、別にこのブログを読んでくださっている方を困らせようとか、そういう意図はまったくないんです。でもたまにこのブログを読んでくれている百姓仲間から「ツジイさんのブログ、おもしろそうなんですけど、なんかムズカシイんですよねぇ。むずかしくないですか?」と。書いていることはむずかしいことではないので、たぶん、堅苦しくないですか?気楽に読めないところもありますよ、というようなことだろう、と思っています。うーむ。まあ、いいや。書きたいように書くしかないんですけどね。ブログなので(笑)。
 で、「エミレーツ宣言」ですけど、まあ、要するに最初の「状況認識」にもあるように、農業とか食糧システムは小規模農家・家族経営農業者の生活と生計が基礎となっていますよ、ってことなんです。「宣言内容」の最初には自然の保護・回復を図りつつ、持続可能な食料安全保障技術革新へ資金・技術を支援します、とありますが、その支援は小規模農家・家族農業者などの生活や生計を支えるために支援されるべきものだということですよね。違うのかな。今の日本の農業の現状をみるとき、それは大規模化して、大きなお金を動かせる経営をしたいなら、すればいいんですが、山地が7割という日本の国土で農業するという性格上、規模拡大がしにくいところもあるんですよね。規模の拡大化を進めるだけでは、大きな企業、つまり農機、肥料、農薬等の大企業ばかりが儲かるシステムになってしまうような気がするんだよなぁ。でも農家が本当につぶれてしまっては、大企業も困るので、政府を巻き込むいつもの手法で、生かさず殺さず、ということになってしまうんではないですか?農家はいつも大汗ばかりをかき、地球の沸騰化でいよいよ大汗をかかされるという。♪あ〜んあん、やんなっちゃった、あ〜んあん、おどろいた。と百姓は牧伸二ウクレレ漫談を歌いたくなるのでありました(笑)。

「規模拡大を追求して儲ける一握りの勝ち組を作っても、農家は減り、地域コミュニティーは成り立たなくなる。でも仲間をつくり、発信し、つながり合えば、地域全体は元気になる。」
「僕たちの世代は他人に見せることより,自分の中の誇りを軸に農業生産をしてきた。今の若い農家は他者に見せること伝えることを含めた農業をしている。」というところはときどき想うことでした。
↑と、昔、このブログで若者の声を紹介したのでありました。

 朝、「こころの時代」という番組で司馬遼太郎の『空海の風景』を取り上げていた。ええ、未読です。先日だったか高橋源一郎伊藤比呂美が『歎異抄』について語っているのを聴いた。『歎異抄』と言えば親鸞だが、書いたのは唯円ですわな。そうしてたくさんの人が現代語訳しています。学者先生や宗教家はもちろんですし、高橋源一郎伊藤比呂美五木寛之野間宏なんかの作家も書いてますよね。
 空海かぁ、つい先日も、「日本史上、もっとも天才だったのは空海だと思います」って誰かが言ってたな。
 学生時代に書道の単位をとろうと授業を受けたら、王羲之の「蘭亭序」がお手本でした。模写する授業だったと思うのですが、これが、あーた、筆使いの基礎をまったく知らないものとしては、まったく書けない。トン、スーッ、トン。という楷書の横棒の筆使いさえ知らなかったんですから。しかも楷書でなくて行書なんですな、蘭亭序。参りました。先生からもまったく無視される授業でした(笑)。みんな次々に褒められて、前の黒板に貼ってもらえるんですが、私のところは素通りなんですなぁ。いや、別に先生を怨んでいるわけではまったくありません。ただ下手だったんだと思います。というか何も知らなかったんですな。水曜日の一時間目の授業だったのはよく覚えていますが、3時間ほど出ただけで、あとはもうやる気をまったく無くしました。で、「蘭亭序」の次には空海の「風信帖」がお手本になる予定だったようですが、空海にはご縁がありませんでした(笑)。「風信帖」も行書なんですかね?

 新聞の「お悔やみ爛」に、詩人の三木卓の訃報が載っていた。88歳、老衰のため、とありました。うーむ。
 三木卓は詩とか小説とか児童文学とか、いろいろ活躍されましたけど、もちろん詩も読んだんだけれど、私にとって三木卓は昆虫図鑑です。『フィールド・ガイドシリーズ11 日本の昆虫』(小学館)です。フィールド・ガイドシリーズですから携行する小さな図鑑です。あたしゃ、このフィールド・ガイドシリーズのファンなんです。掲載されている昆虫の数はそれほどでもないですが、その解説は、あーた、虫好きの詩人が解説しているんですから、これはスバラシイです。ムテキです。私は何度も読み返しています。
 そうですか、三木卓。でもせめて一つは詩を紹介しておきたい。コーヒーを飲む詩もいいのだが、こちらの方が有名な気がします。高田渡が曲をつけて歌っていますしね。

       系図

    ぼくがこの世にやって来た夜
    おふくろはめちゃくちゃにうれしがり
    おやじはうろたえて 質屋へ走り
    それから酒屋をたたきおこした
  
    その酒を呑みおわるやいなや
    おやじは いっしょうけんめい
    ねじりはちまき
    死ぬほどはたらいて その通りくたばった

    くたばってからというもの
    こんどは おふくろが いっしょうけんめい
    後家のはぎしり
    がんばって ぼくを東京の大学に入れて
    みんごと 卒業させた

    ひのえうまのおふくろは ことし六〇歳
    おやじをまいらせた 昔の美少女は
    すごくふとって元気がいいが じつは
    せんだって ぼくにも娘ができた

    女房はめちゃくちゃにうれしがり
    ぼくはうろたえて 質屋へ走り
    それから酒屋をたたきおこしたのだ 

 職業詩人(笑)の詩にしては、そんなにいい詩だとは思わない、という人もいるかもしれないけれど、ま、わざとこういうテイストにしてあるんですね。というか三木卓は、基本、こういうテイストです。でもタイトルは「系図」で、本格的な叙情詩です。
 私たち夫婦は4人の子どもを授かりました。上の二人は病院で、下の二人は個人の産婦人科の医院で生まれましたが、先生は4人とも同じ先生でした。つまりその先生は病院の勤務医の先生だったのですが、評判がよくて独立されて産婦人科を開業されたんですね。うちの奥さんもその先生を信頼していたのでした。3人目だったか、4人目だったか、子どもが生まれて、出産に付き添っていた私は夜、遅くなってから、その産婦人科医院のすぐ近所にあるお寿司屋さんに一人でいったのです。たぶん遅かったからでしょう、中に入ると他にお客さんは誰もいず、すぐ「申し訳ありません、今日はもうあまりネタがないんです。」と大将がおっしゃる。気分が高揚している私は「ああ、そうなんですね、かまいません、おまかせしますから、二合ほど飲みたいので、なにか適当にお願いします。」と、かつて人生で一度も口にしたことのないような言葉がスラスラと出てきました。初めて入る寿司屋でそんなことを言うなんて太っ腹ですなぁ(笑)。でも私は大学を卒業して初めて仕事した職場では、住んでいたところの近所にあった寿司屋に職場の先輩と週に一度か二度は通っていたので、寿司屋さんにはわりと馴れていたのです。
 お寿司は特別においしいとは思わなかったけれど、普通においしかったです。だいたい一人で寿司屋にいってもねぇ。盛り上がりませんわな。でも大将のオススメの日本酒の熱燗はおいしくて、胃袋がポカリと熱くなったのをよく覚えています。「うろたえて質屋へ走り 酒屋をたたきおこす」なんていうような落語みたいなことはしなかったし、出来もしなかったが、胃袋がポカリと熱くなったのは、ほんとうに幸せなことでした。そうしてそんなことをしたのは、たぶん三木卓を読んでいたからだと思います。